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2024年中国の特許権存続期間補償新制度
2024年中国の特許権存続期間補償新制度
一、中国特許法における特許権存続期間補償新制度導入の背景
中国特許法第4次改正が2020年10月17日付けで可決され、2021年6月1日に施行された(以下「2021年特許法」という)。改正特許法第42条第2項は、「特許出願日から4年を経過し、かつ審査請求日から3年を経過した後に特許権が付与された場合、国務院特許行政部門は、特許権者の請求に応じ、特許の権利付与の過程における不合理な遅延に対して特許権の存続期間を補償しなければならない(Patent Term Adjustment、以下「PTA」という)。ただし、出願人に起因する不合理な遅延は除く。」と規定している。また、2021年特許法では、PTAの計算方法及び請求手数料の額については規定されていない。
2021年特許法の施行に伴い、中国国家知識産権局(以下「CNIPA」という)は、2021年5月25日に『改正特許法の施行に伴う審査業務処理に関する暫定措置(以下「暫定措置」という)』を公表した。PTA実務について、上記暫定措置第5条は、「2021年6月1日以降に公告により権利が付与された特許について、特許権者は、改正特許法第42条第2項に基づき、特許権付与の公告日から3ヶ月以内に、紙形式で特許存続期間補償請求書を提出し、その後、CNIPAが発行した手数料納付通知に従って関連手数料を納付することができる。CNIPAは、新たに改正される特許法施行規則の施行後に、上記請求に対して審査を行う。」と規定している。
2021年特許法の発効から2年半を経て、CNIPAは、2023年12月21日に、改正『中華人民共和国特許法施行規則』及び改訂『特許審査ガイドライン』を公表し、2024年1月20日から施行、適用された。改正後の『中華人民共和国特許法施行規則』において、PTA請求の審査実務及び基準、特に補償期間の計算におけるいわゆる合理的な遅延、不合理な遅延、及び具体的な計算方法について明確にされた。
二、CNIPAが公表した『特許関係料金基準及び減額政策の一部調整に関する公告』及び『PTA料金納付など関連事項に関する通知』について
2024年8月6日、CNIPAは、『特許関係料金基準及び減額政策の一部調整に関する公告』を公表し、PTA請求の政府料金及びPTA期間の年金納付基準をさらに明確にした。その内容は以下のとおり。
「特許権者がPTAを請求する場合、1件につき200人民元(約4,122円)のPTA請求料を納付しなければならない。PTA請求が、審査の結果、PTAの補償条件を満たす場合、1件につき年間8,000人民元(約164,900円)のPTA期間の年金を納付しなければならない。ただし、1年未満の部分は、年金納付の対象外である。」
上記公告の公表後、CNIPAは、さらに2024年8月7日に『PTA料金納付などの関連事項に関する通知』を公表し、以下のように規定した。
「2024年7月26日以前にPTAを請求した特許権者は、2024年10月26日までにPTA請求料を納付しなければならない。期限までにPTA請求料が納付されなかった場合、又は全額納付されなかった場合、PTAの請求は認められない。CNIPAがPTAを承認する旨の決定を下した場合、特許権者は、PTA審査承認決定の要求に従い、20年の特許権存続期間が満了する前に、PTA期間の年金を一括で納付しなければならない。PTA期間の年金には、追納金や回復期間は設けられず、『特許料金減額規則』に規定された減額措置は適用されない。期限までにPTA期間の年金が納付されなかった場合、又は全額納付されなかった場合、PTAの請求は認められない。
三、PTA審査における「合理的な遅延」と「不合理な遅延」について
以下に、上記改正『中華人民共和国特許法施行規則』及び改訂『特許審査ガイドライン』におけるPTA審査における合理的な遅延、不合理な遅延の判断基準及び計算方法を説明する。
Ⅰ、権利付与の過程における合理的な遅延
特許法施行規則第78条第3項によると、以下のいずれかの点は、権利付与の過程における合理的な遅延となり、PTAの計算において「控除すべき期間」に該当する。
A、特許法施行規則第66条に規定する「特許出願書類の補正を伴う復審手続」
本項の合理的な遅延事項について、『審査ガイドライン』には、この「合理的な遅延期間」を計算する開始日及び終了日が明確にされていない。
B、特許法施行規則第103条に規定する特許権帰属をめぐる紛争による「手続中止」
特許法施行規則第103条は、「特許出願権又は特許権の帰属をめぐって当事者間に紛争が発生し、当事者が特許行政部門に調停を申し立て、又は人民法院に訴訟を提起した場合、当事者はCNIPAに請求書を提出し、関連手続の中止を求めることができる。前項の規定に基づき関連手続の中止を請求する場合、CNIPAに請求書を提出し、その理由を記載し、特許業務管理部門又は人民法院による出願番号又は特許番号が明記された関連受理書類の写しを添付しなければならない。CNIPAは、当事者が提出した中止理由が明らかに成立しないと判断した場合、当該手続を中止しなくてもよい。」と規定している。
特許業務管理部門が作成した調停書又は人民法院が下した判決が効力を生じた後、当事者はCNIPAに関連手続を回復するための手続を行わなければならない。中止請求の日から1年以内に、特許出願権又は特許権の帰属をめぐる紛争が解決されず、関連手続の中止を継続する必要な場合、請求人は当該期間内に中止の延長を請求しなければならない。期間が満了しても延長請求がなされなかった場合、CNIPAは自ら関連手続を再開する。
本項の合理的な遅延事項について、『審査ガイドライン』には、この「合理的な遅延期間」計算の開始日と終了日が明確にされていないが、『審査ガイドライン』第五部分第七章第7節の「手続中止」において、以下のように規定されている。
「手続中止の条件が満たされた場合、又は補正後に手続中止の条件が満たされた場合、CNIPAに手続の中止を請求しなければならない。審査官は、特許出願(又は特許)権帰属をめぐる紛争の両当事者に対し、手続中止の請求を承認する旨の通知書を発行し、中止期間の開始・終了日(手続中止の請求日から起算)を告知する。」
C、特許法施行規則第104条に規定する財産保全措置による「手続中止」
特許法施行規則第104条は、「民事事件の審理において、人民法院が特許出願権又は特許権に対して保全措置をとる旨の裁定を下した場合、CNIPAは、その裁定書と執行協力通知書を受領した日に、保全中の特許出願権又は特許権の関連手続を中止しなければならない。保全期間が満了しても人民法院が引き続き保全措置をとる旨の裁定を下さない場合、CNIPAは自ら関連手続を再開する」と規定している。
本項の合理的な遅延事項について、『審査ガイドライン』には、「合理的な遅延期間」計算の開始日と終了日は明確に定されていないが、『審査ガイドライン』第五部分第七章7節の「保全措置」において、以下のように規定されている。
「CNIPAは、人民法院が下した保全措置の裁定を受領した場合、関連規定に基づき、保全中の特許出願権又は特許権に関する手続の中止を審査、決定しなければならない。規定を満たした手続中止の裁定について、CNIPAは、人民法院及び出願人又は特許権者に保全手続開始の通知書を発行し、財産保全の執行協力期間の開始日と終了日(民事裁定書を受領した日から起算)を記載し、特許権に対する財産保全措置を公告しなければならない。」
D、その他の合理的な事情に起因する遅延
特許法施行規則第78条第3項第3号によると、「その他の合理的な事情に起因する遅延」も合理的遅延の態様の1つとして挙げられており、PTA期間の計算において「控除すべき期間」に該当する。
『審査ガイドライン』第五部分第九章第2.2.1節は、「行政訴訟などその他の合理的事情」も合理的な遅延と認めることを規定している。
Ⅱ、出願人に起因する不合理な遅延
特許法施行規則第79条及び審査ガイドライン第五部分第九章第2.2.2節によると、以下の事情は、権利付与過程において出願人に起因する不合理な遅延であり、PTAの計算において「控除すべき期間」に該当する。
A、CNIPAが発行した通知に対して、指定期間内に応答しなかったことに起因する遅延
本項の不合理な遅延事項について、『審査ガイドライン』には、この「不合理な遅延期間」計算の開始日と終了日が明確にされていないが、『審査ガイドライン』第五部分第九章第2.2.2節は以下のように規定している。
「CNIPAが発行した通知に対して、指定期間内に応答しなかったことに起因する遅延の場合、遅延の日数は、期限満了日から実際に応答が提出された日までとする。」
B、遅延審査請求による遅延
特許法施行規則第56条第2項によると、特許出願の遅延審査請求は、出願人が審査請求と同時に行わなければならないが、特許出願の遅延審査請求は、審査請求が発効した日から効力を生じる。遅延期間は、遅延審査請求の効力発生日から1年、2年又は3年とする。
本項の不合理な遅延事項について、『審査ガイドライン』には、この「不合理な遅延期間」計算の開始日と終了日が明確にされていないが、『審査ガイドライン』第五部分第九章2.2.2節は以下のように規定している。
「遅延審査を請求した場合、遅延の日数は、審査が実際に遅延した日数とする。」
C、援用による追加に起因する遅延
特許法施行規則第45条によると、特許出願又は実用新案登録出願において、特許請求の範囲、明細書若しくはそれらの内容の一部に欠落又は誤りがあるが、出願人がその提出日に優先権を主張した場合、提出日から2ヶ月以内、又はCNIPAが指定した期限内に、先願書類を援用することで補充提出することができる。補充提出された書類が関連規定を満たす場合、最初に提出された書類の提出日を出願日とする。
本項の不合理な遅延事項について、『審査ガイドライン』には、この「不合理な遅延期間」計算の開始日と終了日が明確にされていないが、『審査ガイドライン』第五部分第九章第2.2.2節は以下のように規定している。
「引用による追加に起因する遅延の場合、遅延の日数は、特許法施行規則第45条に起因する遅延された日数とする。」
D、権利回復の請求に起因する遅延
本項の不合理な遅延事項について、『審査ガイドライン』には、この「不合理な遅延期間」計算の開始日と終了日が明確にされていないが、『審査ガイドライン』第五部分第九章第2.2.2節は以下のように規定している。
「権利回復の請求に起因する遅延の場合、遅延の日数は、元の期限満了日から権利回復請求の承認通知書の発行日までとする。ただし、当該遅延が特許主務官庁に起因するものであることを証明できる場合は除外される。」
E、優先日から30ヶ月以内に中国国内段階への移行手続を行った国際出願に対し、出願人が早期処理を求めなかったことに起因する遅延
本項の不合理な遅延事項について、『審査ガイドライン』には、この「不合理な遅延期間」計算の開始日と終了日が明確にされていないが、『審査ガイドライン』第五部分第九章第2.2.2節は以下のように規定している。
「優先日から30ヶ月以内に中国国内段階への移行手続を行った国際出願に対し、出願人が早期処理を求めなかったことに起因する遅延の場合、遅延の日数は、中国国内段階への移行日から優先日より30ヶ月を経過した日までとする。」
CNIPAはPTA請求の審査を順次開始し、弊所としても引き続き関連審査情報を収集し、適時クライアントと共有する。