ニューズレター
没収制度に係る刑法及び刑事訴訟法等の法律改正
没収制度に係る刑法及び刑事訴訟法等の法律改正
2015年12月30日付で公布された、第三者の犯罪による所得に係る没収制度に関する刑法の一部改正を受け、没収及び追徴並びにその保全に係る正当な手続をめぐる刑事訴訟法の一部改正も、2016年5月27日付で立法院を通過し、2016年6月22日付で総統により公布されました。そして、前記の刑法の一部改正とともに、2016年7月1日より施行されました。
今回の新たな没収制度の構築に伴い、刑法及び刑事訴訟法の関連規定の改正のほか、贈賄処罰条例(中国語「貪污治罪條例」)第10条及び第20条、毒品危害防止条例(中国語「毒品危害防制條例」)第18条、第19条及び第36条、及び組織犯罪防止条例(中国語「組織犯罪防制條例」)第7条等(以下、併せて「関連法律」という。)の関連規定も併せて次々と改正されました。改正後の関連法律における没収及びその保全は、原則として刑法及び刑事訴訟法によることとなります。
改正後の刑法及び刑事訴訟法では、没収は、刑罰に属する付加刑の一種ではなく、独立した法律効果を有します。したがって、刑罰から分離して単独で没収を宣告することができます(刑法第40条第2項及び第3項)。また、刑罰の場合と異なり、行為時の法律が適用されるのではなく、裁判時の法律が適用されます。したがって、施行前の犯罪行為に対し法を遡及適用して、犯罪によって得た物等を没収することができます(刑法第2条第2項)。
今回の刑法及び刑事訴訟法の改正は、司法実務に大きな変革をもたらすのみならず、企業のコンプライアンス実務にも大きな影響を与えるものと考えられます。各企業におかれましては、少なくとも、次のいくつかの改正点に係るリスクにご注意頂ければと思います。
1. 犯罪行為者以外の第三者(自然人、法人又は法人でない団体)が所有するものであっても、犯罪若しくは犯罪予備に使用される物、犯罪から派生する物、又は犯罪によって得た物(以下、併せて「没収対象」)については、次のいずれか一つに該当する場合、没収される可能性があります(刑法第38条第3項及び第38条の1第2項)。
n 正当な理由がなく、犯罪若しくは犯罪の予備に使用する物、又は犯罪により生じた物を提供又は取得した場合(刑法第38条第3項)
n 他人の違法な行為を明らかに知った上で犯罪によって得た物を取得した場合(刑法第38条の1第2項第1号)
n 他人の違法な行為により無償又は明らかに相当ではない対価で犯罪によって得た物を取得した場合(刑法第38条の1第2項第2号)
n 犯罪行為者が他人のために違法な行為を実行し、これにより当該他人が犯罪によって得た物を取得した場合(刑法第38条の1第2項第3号)
2. 犯罪によって得た物とは、犯罪により直接に取得したものに限らず、違法行為(L&L注:法令に違反したが「その他の原因により」犯罪までにはならないと刑法上評価される行為を含む。)によって得た物、それと換えられた物又は財産上の利益、及びこれらの果実をすべて含むものを指し、犯罪によって得た物とされる対象の範囲が拡大されます(刑法第38条の1第4項)。
3. 没収が不能又は困難である場合、没収対象の価格を追徴することも可能です(刑法第38条第4項及び第38条の1第3項)。また、犯罪によって得た物及び追徴の範囲及び価格を認定することが明らかに困難な場合、これらを推計して認定することも可能です(刑法第38条の2第1項)。
4. 事実上又は法律上の原因により犯罪行為を訴追できない、又は有罪判決を言渡すことができないとしても、裁判により没収対象について没収が単独に宣告される可能性があります(刑法第40条第2項及び第3項並びに刑事訴訟法第455条の34から第455条の37)。
5. さらに、没収対象の追徴を保全するため、事件の捜査期間中であっても、容疑者又は被告以外の第三者の財産を差し押さえることができます。(刑事訴訟法第133条第2項)なお、没収対象の保全を徹底するため、動産、船舶、航空機及び債権についても、特殊な差押方法を増設しました(刑事訴訟法第133条第4項)。
6. 差押命令又は没収裁判は、押収物又は没収物の処分を禁止する効力を有します。また、没収物は、没収裁判が確定した時点から、国の所有に帰属します(刑法第38条の3第1項及び第3項並びに刑事訴訟法第133条第6項)。
7. 2016年7月1日(施行日)以前に行った犯罪行為であっても、まだ裁判所に係属し、確定していない事件であれば、今回の刑法及び刑事訴訟法等の改正が適用されることになります(刑法第2条第2項及び刑事訴訟法施行法第7条の9)。したがって、会社にて既に裁判所に係属しているが未だ確定していない刑事訴訟がある場合には、上記の説明のとおり、没収対象に係る没収、追徴や差押に関するリスクに注意されることが必要となります。
なお、今回の刑事訴訟法の改正では、犯罪により損害を蒙った被害者(以下、「被害者」という。)及び財産を没収若しくは追徴されるおそれがある第三者(以下、「第三者」という。)等の正当な権利を保障する観点から、少なくとも次のような正当な手続の保障が増設されました。併せてご注意頂ければと思います。
1. 裁判所又は検察官は、没収又は追徴されうる押収物について、所有者又は権利者の申立てにより保証金額を定めた上で、保証金の納付があった後、差押命令を取り消すことができます(刑事訴訟法第142条の1第1項)。
2. 没収対象を所有する第三者は、被告事件の没収手続への参加を申し立てることができます(刑事訴訟法第455条の12第1項)。又は、裁判所の職権により、第三者に対し被告事件の没収手続への参加を命じることができます(刑事訴訟法第455条の12第3項)。特段の規定のほか、没収手続には通常の裁判手続が適用され、且つ参加人は被告人と同様の訴訟上の権利を有します(刑事訴訟法第455条の12から第455条の28)。
3. 没収対象を所有する第三者は、過失によらず、被告事件の没収手続へ参加しなかった場合、没収確定判決を知った日から30日以内に没収の確定裁判の取消しを申し立てることが可能です。ただし、没収確定判決があった後、既に5年を経過した場合、没収の確定裁判の取消しを申し立てることができません(刑事訴訟法第455条の29第1項)。没収の確定裁判の取消しが許可された場合、元来の裁判手続が再開されることとなります(刑事訴訟法第455条の33)。
4. 没収対象が没収又は追徴されたとしても、 (1)没収対象に対する所有権を有する者、又は(2)犯罪により債権請求権を行使でき且つ債務名義を取得した者の没収対象に対する権利は、没収裁判により妨げられるものではありません。つまり、検察官に対し没収対象又は換価代金の還付又は給付を請求することができます(刑法第38条の3第2項)。ただし、かかる請求は、確定裁判があった後1年が経過した場合はできないとされています。(刑事訴訟法第473条第1項)。
上記情報についてご質問がございましたら、又はその他の関連法規についての情報をご希望でしたら、お気軽に弊所(お問い合わせ先:朱百強弁護士marrosju@leeandli.com;林莉慈弁護士litzulin@leeandli.com)までご連絡下さい。