台湾は、2010年6月に中国大陸との間で「両岸経済協力枠組協定(海峡兩岸經濟合作架構協議)」(Economic Cooperation Framework Agreement、以下「ECFA」)を締結し、これに続いて、2011年9月22日には、日本との間で「投資自由化、促進及び保護についての亜東関係協会と財団法人交流協会との提携協定(亞東關係協會與財團法人交流協會有關投資自由化、促進及保護合作協議)」(以下「日台投資協定」)を締結しました。この協定は、台湾への投資や台湾を通じて中国大陸へ進出することを視野に入れている日本企業にとっても、新たな投資の機会を創出するものです。
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一、
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日台投資協定とは
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1. 歴史的背景
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日本と台湾は、現在、正式な外交関係にありませんが、これまでにも民間レベルの交流は盛んに行われ、相互友好関係を築いてきました。1972年12月26日、「亜東関係協会と財団法人交流協会による在外事務所の相互設置に関する取り決め」が調印され、両協会をそれぞれ政府間交流の代表機関としました。そして、2011年9月22日、両国は日台投資協議に調印するに至り、今後は、双方の一層の経済関係緊密化が期待されます。
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2. 協定の主な内容
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日台投資協定の取り決めは、大きく分けて(1)投資の促進、(2)投資の保護、(3)投資の自由化の3つに分けられます。
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(1)
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投資の促進
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今後、両国の投資家は、資金を自由に相手国/自国へ送金できるようになり、また、現地調達などの割合に対して制限を設けることが禁止され、現地の国籍を有する者を役員及び専門管理者とするよう要求することもできなくなる等の内容が盛り込まれました。
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(2)
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投資の保護
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これまで、動産及び不動産に限られていた保護の対象範囲が技術や知的財産権、有価証券などへも拡大されました。徴収(その他徴収に相当する「間接徴収」を含む。)を行う際は、遅滞なく投資家に対し、適切(即ち、公正市場価格(fair market value)に見合った)、有効な補償を与える必要があるとされ、また、投資家と相手国政府との間の争議は、国際仲裁機関に提起し(例えば、国連国際商取引法委員会又は国際商業会議所仲裁規則による仲裁)、解決を図ることも含まれています。
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(3)
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投資の自由化
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「内国民待遇」及び「最恵国待遇」などの原則が盛り込まれ、双方の投資家による相手国での投資は、自国投資家又は他国の投資家と同等以上の待遇を受けることができるようになります。ただし、条件の詳細については、更なる交渉が必要であるとされました。(詳細についてお知りになりたい場合は、当所までご連絡ください。)
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上述のとおり、同投資協定には、投資対象の認定の緩和、「内国民待遇」及び「最恵国待遇」、並びに投資家への補償の提供などの内容が盛り込まれ、これは事実上、国際間の投資協定に該当するものとも言えるでしょう。
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一方、台湾が外国企業による投資を制限している産業、例えば、電気通信業、金融サービス業、海運などについては、同協定の対象から除外されました。また、中国大陸資本が同協定を通じて台湾へ投資することを防ぐため、特定の企業又は特定の地域からの間接投資に対しては、同協定により優遇を与えることを拒絶できるとの規定も定められました。
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二、
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日台投資協定とECFA
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近年、日本企業を取り巻く環境は、急激な円高の進行、労働条件や環境保護に関する国の規制強化などにより、ますます厳しい状況に直面しています。さらに、東日本大震災後、日本国内の原子力発電に対する反対の声が高まり、電力供給が不安定となっている影響も加わり、多くの企業は海外シフトの可能性を模索しているようです。中国大陸は既に世界中の企業が投資の対象として重視する地域となっており、市場としての優位性も有していますが、日本企業は、歴史的な経緯により、中国大陸への直接投資が孕む政治的リスクについて、依然、根強い懸念を抱いています。
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一方、台湾は、民間レベルとは言え日本との間で長期にわたる友好的な関係を維持しており、また、文化や言語において中国大陸と近似しています。ECFA締結後、台湾で製造される物品や台湾企業が中国大陸において提供するサービスの多くは、WTO基準以上の待遇を享受できるようになりました。日本企業は、中国大陸へ進出するに当たって、今回の日台投資協定により、ECFAの恩恵をも受けることができるようになります。今後は、台湾企業と提携して中国大陸に進出することも、まず台湾で投資を行い、その後、台湾企業として中国大陸市場へ進出するという選択も可能となります。
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ECFAは中台双方の貿易に関する「枠組み協定」です。両岸間で更なる協議を要する内容はまだ多いものの、ECFAに含まれる物品貿易、サービス貿易の「アーリーハーベスト(早期の実施・解決項目)(Early Harvest)」の関税引下げは、日台の投資家がすぐにでも享受できる貿易上の優遇措置です。
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物品貿易について、中国大陸は台湾製の539品目(農産品18項目、石油化学88項目、輸送用機器50項目、機械107項目、繊維136項目及びその他の製品104項目を含む。)に対し関税を引き下げ、2013年までにゼロ関税とする予定です。
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サービス貿易について、中国大陸は台湾に対し、WTOにおいて未開放のサービス業(自然科学並びにエンジニアリング学の研究開発及び実験開発サービス、専門デザイン・サービス、病院サービスなど)、又は制限が比較的多いサービス業(ソフトウェア実行サービス、会議サービスなど)を数項目開放しました。ECFA発効後は、台湾で設立された会社のうち、台湾においてサービスを継続して三年以上提供しており、台湾で不動産を所有しているか又は賃借しており、かつ、所得税を納付している会社は、その株主の国籍を問わず、台湾籍会社として、中国大陸において同性質・同範疇のサービスに従事することができます。また、台湾で撮影した映画は中国大陸の輸入割当制限を受けません。
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日台投資協定による「内国民待遇」「最恵国待遇」及び様々な投資保護を通じて、日本企業の対台湾投資は充分に保護され、かつ、優遇措置を受けられるようになりました。また、取扱い製品、サービスが「アーリーハーベスト」の項目に該当する場合、より低い関税率で中国大陸へ輸出することができます。台湾企業との提携により、日本企業は、WTOの制限により従事できないサービス業を中国大陸で行うことができるようになるほか、中国大陸市場への参入や関係構築を加速することも期待できます。
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既に世界市場で活躍されている日本企業も、日台投資協定及びECFAによる優遇措置を活用されれば、更に海外展開の新しい道が開かれるでしょう。
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