ニューズレター
知的財産裁判所の専利権利侵害訴訟審理モデル及び今後ありうる変革
知的財産案件の裁判の質を改善し、審理効率を高め、法律見解の一致性を促進するため、台湾は2008年7月1日に知的財産裁判所(以下「IP裁判所」)を正式に設立し、同日、「智慧財産案件審理法」(「知的財産案件審理法」)を施行した。これは台湾の知的財産訴訟環境において歴史的な節目となる大きな出来事であった。 |
||
IP裁判所が成立して2年余りとなるが、従来の裁判所との最大の違いは、同裁判所が外部の批評と提案のいずれに対しても開放的な態度を堅持してこれを受け入れ、改善のための参考とすると同時に、裁判所内部で検討中のものも、関連する規範事項も、出し惜しみせず、社会一般に均しく公開している点である。たとえば、知的財産訴訟手続の審理プロセスは、当事者の手続権益が十分な保障を受けることができるか否かといった問題と極めて明白な関係性を有している。そこでIP裁判所は、その成立後まもなく、司法院が定めた「智慧財産訴訟事件審理模式」(「知的財産訴訟事件審理モデル」)をそのホームページ上で公布し、案件審理時の参考として裁判官に供するほか、訴訟当事者が今後進められていくであろう訴訟プロセスの概要を把握することができるようにした。1年余りの運営後、IP裁判所は2010年3月12日に弁護士、弁理士、特許代理人などを招いて「案件審理モデル検討会議」を開催し、上述の審理モデルについて意見交換並びに改正を行い、その後、2010年3月23日に、そのホームページ上で公布している審理モデルを更新し、現在に至るまでこれを実施している。 |
||
現行の審理モデルによれば、専利権利侵害訴訟の第一審事件は、原則として、「手続審理」及び「実質審理」に分かれ、それぞれ「審査法廷」及び「裁判法廷」が審理を担当する。 |
||
一、 |
手続審理手続き |
|
|
裁判所は案件受理後、審査法廷が手続審査を行い、必要な補正を行うよう当事者に命じる。その後、手続要件が完全に揃ってから、答弁書を提出するよう書簡で被告に命じ(いわゆる「第一回書面準備手続き」)、続いて、原告及び被告それぞれに争点整理状を提出するよう命じる(いわゆる「第二回書面準備手続き」及び「第三回書面準備手続き」)。上述の書状交換手続きが完了した後、手続審査は終結する。一般的な情況において、手続審査には、約2~4か月を要する。 |
|
二、 |
審理手続き |
|
|
案件が裁判法廷に移った後、審理を担当する裁判官は直ちに開廷して関連争点について実質調査及び弁論を行う。通常、一回目の審理は準備手続であり、その目的は争点の整理並びに今後の審理計画の策定である。続いて、1~2回又はさらに多くの口頭弁論を行い、裁判所は当事者の攻撃防御方法及び個別案の情況を見て、それぞれ専利有効性、権利侵害の有無、損害賠償などの争点について、関連する調査及び審問を行う。一般的な情況において、審理手続き開始から判決までは、約3~6か月を要する。 |
|
上述の審理モデルを見ると、IP裁判所が第一審専利権利侵害民事訴訟事件の終結までに要する時間は決して長くなく、早ければ、おそらく半年以内に判決が下され、最も長い場合でも1年を待たずに最終判決を受けることができる。IP裁判所成立前には、一般の裁判所が専利権侵害訴訟を審理するのに、ややもすると2~3年以上の時間を費やして、ようやく1つの審級の裁判を終結することができたが、そのような情況に比べると、効率改善の成果は誰の目にも明らかである。但し、訴訟手続に費やす時間が比較的短い点について、社会大衆が全く懸念を抱いていないわけではない。 |
||
IP裁判所は、裁判の質をより一層向上させ、当事者の判決結果に対する信頼を得られるよう、2010年11月5日に、再度「知的財産裁判所裁判官、弁護士、弁理士及び特許代理人による座談会」を開催し、当該座談会の席で弁護士、弁理士及び特許代理人からIP裁判所成立以来2年余りの運営情況や内容に対する各種提言を聴取するとともに、関連する会議の出席者にIP裁判所で検討中の「民事専利権利侵害第一審訴訟プロセス」改正案のブリーフィングを行った。現在実施されている審理モデルと比べて、当該改正案の最も重要なポイントは、IP裁判所が専利有効性、権利侵害の有無及び損害賠償などの問題についての弁論手続きに入る前に、「専利請求の範囲の解釈」(claim construction)という専利訴訟の最も基本的な議題について、まず1回の口頭弁論を行い、裁判所は審理開始後一定期間内に「専利請求の範囲の解釈」(claim construction)について書面方式で当事者にその心証又は決定を公開することを検討している点である。このほか、損害賠償問題の審理に入る前に、裁判所は、専利有効性及び権利侵害問題について「中間判決」をまず作成し、これによって、当事者に、和解するか否か、又は引き続き損害賠償について調査を行うかを検討させる。 |
||
上述の改正案は、まだ決定した案ではなく、IP裁判所はこれから各界の意見を整理し、内部で議論検討したうえで、最終的な確認を行って公布される。したがって、今後、IP裁判所の専利権利侵害訴訟に関する審理モデルがどのように変化・進展していくのか、また、新たな審理モデルが個別案における審理効率及び品質について如何なる影響をもたらすのかを注視していく必要がある。 |