ニューズレター
知的財産行政訴訟における新証拠提出の可否に関する解釈
知的財産の行政訴訟手続中に、当事者が如何なる案件においても権利の有効性について新たな証拠を提出することができるか否かに関して、台湾知的財産裁判所は、先頃、ある専利無効審判請求行政訴訟に係る判決のなかで、次のような見解を示した。 |
2008年7月1日に施行された「智慧財産案件審理法」(「知的財産案件審理法」)第33条には「商標登録の無効審判、取消審判、又は専利権(注:発明特許権、実用新案権、意匠権を含む。)の無効審判に係る行政訴訟において、当事者が口頭弁論終了前に、同一の無効理由又は取消理由について提出した新たな証拠につき、知的財産裁判所は依然としてこれを斟酌しなければならない。知的財産主管機関は、前項の新証拠について答弁書を提出し、この新証拠に関し他方当事者の主張に理由があるか否かにつき開示しなければならない」と規定されている。その立法目的は、同一の専利又は商標権の有効性をめぐる紛争につき、できるだけ1回の行政訴訟手続きで解決できるようにすることによって、権利状態が長期にわたり不確定となるような情況を回避することにある。これまで無効審判請求人は専利権が取り消されるべきものであることを示す証拠を智慧財産局の審決作成前に提出しなければならず、当該新たな証拠がその後の行政訴訟で補充提出された場合には、行政裁判所はこれを斟酌しないため、無効審判請求人は当該証拠について改めて無効審判を請求しなければならず、また、行政訴訟を派生させるといった事態もまねいており、かかる情況は商標権の無効審判又は取消審判手続においても同様であった。「智慧財産案件審理法」が施行された後、当事者は同一の無効理由又は取消理由について、行政訴訟中に新たな証拠を提出し、知的財産裁判所にそれを斟酌するよう請求することができるようになった。このとき、智慧財産局は当該新証拠につき答弁書を提出して、意見を述べなければならない。 |
しかしながら、商標の無効手続であるか、取消手続きであるか、又は専利の無効審判請求手続であるかに関わらず、その行政訴訟には、いずれも三方の当事者がかかわる。専利無効審判請求を例にすると、行政訴訟の当事者は、専利権者、無効審判請求人及び行政機関である。現在の制度下において、専利権者及び無効審判請求人は、個々の案件の情況に応じて、おそらくは、原告及び参加人(又は参加人及び原告)となり、行政機関は必ず被告となり、通常それは、智慧財産局である。上記三方の当事者がいずれも「智慧財産案件審理法」第33条の規定により行政訴訟において新たな証拠を提出することができるか否かについては依然疑問があり、この問題について、司法院は2009年知的財産法律座談会において、原告及び参加人のみが新たな証拠を提出することができ、行政機関については「不可」とすることを決議した。 |
台湾の行政訴訟制度によれば、当事者は智慧財産局が下した無効審決に不服であるとき、まずは、その上級機関である経済部に訴願を提出しなければならず、経済部が智慧財産局の審決を維持するのであれば、当事者は智慧財産局を被告として、知的財産裁判所に行政訴訟を提起しなければならない。ただし、当事者が経済部の訴願決定のみを不服とする場合は、経済部を被告として行政訴訟を提起することもできる。これに準ずると、無効審判請求行政訴訟において、被告となる行政機関は必ずしも智慧財産局であるとは限らず、経済部である可能性もある。しかし、経済部は結局のところ、専利案(及び商標案)を直接処理する主管機関ではなく、経済部が訴訟において、智慧財産局と同じように、原告又は参加人の提出した新証拠に対して、答弁書をもって具体的に意見を表明するのは難しい。この種の情況をどのように解決すべきかについても、議論がある。 |
これに対して、知的財産裁判所は、先ごろ作成した99年(西暦2010年)度行専更(一)字第2号判決において、「訴願機関が被告である場合、裁判所は訴願決定の理由が適法であるか否かのみを斟酌するが、参加人の提出した新証拠についても斟酌するのであれば、裁判所の審理範囲を逸脱することとなり、かつ、この種の情況は、被告である訴願機関、又は訴訟に参加していない智慧財産局がいずれも前述の『答弁書を提出する』という法定手続をとりようがなく、裁判所も当該新証拠を斟酌しようがない」と判示している。 |
言い換えれば、訴願機関(即ち、経済部)を被告とする知的財産行政訴訟における知的財産裁判所の現在の見解は、「原告又は参加人は『智慧財産案件審理法』第33条の規定により新たな証拠を提出することができない」というものである。 |