ニューズレター
「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」締結
台湾の「財団法人海峡交流基金会」と中国の「海峡両岸関係協会」は2010年6月29日にそれぞれ台湾、中国を代表して「海峡両岸経済合作架構協議」(「中台経済協力枠組み協議」略してECFA)及び「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」(「中台知的財産権保護協力協議」)の2つの協定に調印した。前述の協定締結は、台湾と中国の経済・貿易関係を安定的に発展させ、台湾と中国の経営環境を完備することができ、且つ台湾の国際市場進出の後押しにもなる。 |
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「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」(以下「本協定」)の主な内容は以下のとおりである。 |
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一、 |
協力の目的 |
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双方は、平等互恵原則に基づいて、専利(※中国語の「専利」には発明特許、実用新案、意匠の意味が含まれており、混乱を防ぐため、以下、これら全ての意味を含む場合又はいずれを指すのか不明である場合には「専利」と原文表記する)、商標、著作権及び植物品種権(植物新品種権)(以下、「品種権」)などの台湾と中国における知的財産権保護に関する交流及び協力を強化し、関連問題を協議・解決し、台湾及び中国双方の知的財産権のイノベーション、応用、管理及び保護を向上させることに同意する。 |
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二、 |
優先権 |
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双方は、それぞれの規定により、他方の専利、商標及び品種権の最初の出願日の効力を確認し、並びに然るべき処理を行うよう積極的に推進し、台湾と中国双方の国民の優先権権益を保障することに同意する。 |
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三、 |
品種の保護 |
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双方は、それぞれが公告した植物の種類(植物品種保護リスト)の範囲内で他方の品種権の出願を受理し、並びに品種権を出願することのできる植物の種類(植物品種保護リスト)の拡大について協議を行うことに同意する。 |
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四、 |
審査協力 |
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双方は、専利検索及び審査結果、品種権審査と試験の相互利用などの協力及び協議を推進することに同意する。 |
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五、 |
業界協力 |
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双方は、台湾と中国の、専利、商標などの業界における協力を促進し、有効且つ簡便・迅速なサービスを提供することに同意する。 |
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六、 |
認証サービス |
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双方は、台湾と中国の著作権貿易を促進するため、著作権認証協力メカニズムを構築し、一方の音声・映像製品を他方で発行する際、当該一方の指定する関連協会又は団体が著作権認証を行うことができ、並びに書籍、コンピュータ・プログラム(ソフトウェア)などのその他の作品、製品の認証制度について意見を交換することに同意する。 |
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七、 |
協力処理メカニズム |
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双方は、法執行・協力処理メカニズムを構築し、それぞれの規定により、以下に掲げる知的財産権の保護事項について適切な処理を行うことに同意する。 |
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(一) |
違法コピー及び模倣を取り締まり、特に、インターネットを介して違法コピー書籍、音声・映像及びコンピュータ・プログラム(ソフトウェア)などを提供し又は提供するのを幇助する権利侵害ウェブサイト、及び市場に流通している違法コピー及び模倣品を調査し明らかにしたうえで処理する。 |
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(二) |
著名商標、地理標示又は著名産地名称を保護し、悪意に基づく冒認出願行為を共同で防止し、並びに権利者が冒認出願されて登録を受けた著名商標、地理標示又は著名産地名称の取消しを請求する権利を行使することができるよう保障する。 |
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(三) |
果物及びその他農産品の虚偽の産地標示につき、市場の管理・監督及び調査・処理措置を強化する。 |
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(四) |
その他の知的財産権保護事項。 |
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上記の権益保護事項を処理する際、双方は互いに必要な情報を提供し、並びに処理結果を通知することができる。 |
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八、 |
業務交流 |
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双方は、以下のように、知的財産権業務の交流及び協力事項を展開することに同意する。 |
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(一) |
業務主管部門担当者の作業会合、視察訪問、経験及び技術の交流、研究討論会の開催などの実施、関連業務の研修・訓練の実施を推進する。 |
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(二) |
制度・規範、データベース(データ、文献資料)及びその他関連情報を交換する。 |
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(三) |
関連文書の電子交換協力を推進する。 |
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(四) |
著作権管理団体の交流と協力を促進する。 |
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(五) |
関連企業、代理人及び公衆に対する広報・指導を強化する。 |
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(六) |
双方が同意するその他の協力事項。 |
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九、 |
業務計画 |
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双方は、専利、商標、著作権及び品種権などの業務部門をそれぞれ別々に設置し、具体的な業務計画及び方案を協議し策定することに同意する。 |
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十、 |
秘密保持義務 |
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双方は、本協定の関連活動を執行する際に得た情報につき、秘密を保持することに同意する。但し、請求目的により使用する場合は、この限りではない。 |
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十一、 |
用途の制限 |
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双方は、他方が提供した資料を請求目的により使用する場合にのみ使用することに同意する。但し、双方に別に約定があるときは、この限りではない。 |
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十二、 |
文書の様式 |
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双方は、情報の交換、通知・報告、査問及び日常業務連絡など、話合いで定めた文書様式を使用することに同意する。 |
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「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」の締結は、台湾と中国の知的財産権方面における協力及び交流を促すことになり、そのうち優先権互恵に関する約定は、長年にわたり、グローバル企業及び知的財産権者が最も強い関心をもってきた議題であった。現在、出願人が台湾専利、商標及び植物品種出願を提出する際、もし出願人が中国国民、又はその根拠となる基礎案が中国出願案である場合、いずれも優先権を主張することはできない。同様に、中国も現時点では台湾の出願人又は台湾基礎案に関する優先権主張を受理していない。しかし、「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」の締結は、この制限について解決策を提出している。「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」締結後、智慧財産局(※台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)は2010年6月30日に公聴会を招集し、前述の協定について説明した。智慧財産局は公聴会において「協定中の優先権相互承認に関する約定に基づき、智慧財産局は、台湾及び中国国民が法により提出した優先権請求を受理する用意があり、また、その他の優先権互恵国家の出願人が中国の最初の出願案に基づいて法により台湾に提出した優先権請求も受け入れるつもりである」と述べている。智慧財産局は、これとは別に、「前述の優先権請求約定は、正式に発効した後、原則として、過去に遡って適用されることはない」と表明している。言い換えれば、当該局は「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」発効後に法により提出された優先権請求のみを受理する。智慧財産局の前述の意見は当該局の正式な見解ではないものの、当該見解は、あるいは、将来、台湾と中国が「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」に基づいて執り行う優先権請求実務を反映しているのかもしれない。 |
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「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」に基づいて、中国も、台湾や中国又はその他の国家からの出願人が中国に提出する優先権請求をどのように処理するか決定することになる。いずれにせよ、この協定は、出願人が複数国に跨る専利、商標及び植物品種出願を行う際、その出願に、より柔軟性をもたせ且つ利点をもたらすものである。 |
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「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」は、締結後、立法院で審議され、当該院は2010年8月17日に「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」及び関連する法改正(「専利法」第27条及び第28条、商標法第4条及び「植物品種及び種苗法」第17条の優先権互恵基礎に関する関連規定の改正を含む)を可決した。経済部智慧財産局は別途、2010年8月18日付公告で、「『海峡両岸智慧財産権保護合作協議』に関連する後続の執行問題は、なお、中国側との協議、討議を行い、これを確認する必要がある」と説明している。専利及び商標の優先権を例にすると、将来的に双方が話し合う執行上の問題には、双方の優先権申請受理の実施日、外国企業はその台湾又は中国における基礎案に基づいて優先権を主張することができるか否か、優先権互恵の遡及適用の可否、台湾と中国の専利主管機関の優先権書類の電子交換などが含まれるものと思われる。当所は今後も引続き本件の動向を追い、随時報告する。 |
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台湾の「財団法人海峡交流基金会」と中国の「海峡両岸関係協会」が双方の覚書交換手続を完了した後、「海峡両岸経済合作架構協議」及び「海峡両岸智慧財産権保護合作協議」は2010年9月12日に正式に発効した。2つの協定の発効後、台湾と中国は、「両岸経済合作委員会(中台経済協力委員会)」の設立及び人員の配置、実施の細部についての協議などの話合いを実施した。 |