ニューズレター
取締役の競業禁止解除は具体的な行為について個別にこれを行なわなければならない
台北地方裁判所の96年(西暦2007年)9月4日の民事判決は、「財団法人証券投資人及期貨交易人保護中心(the Securities and Futures Investors Protection Center)」(「財団法人証券投資家及び先物取引家保護センター」)が「友聯産物保険股份有限公司(Union Insurance Co., Ltd)」の株主総会決議の無効を確認するよう求めて訴えていた案件について、取締役の競業禁止義務に関する当該株主総会決議を無効とする判定を下した。当該判決の重点は以下のとおりである。
1.取締役は取締役会の構成員であり、また取締役会は株式会社の業務執行及び戦略決定機関であるため、取締役は会社業務に係る機密について、自ずと詳細に知悉することになる。したがって、もし取締役が社外で会社と自由に競業することを容認するのであれば、自社の業務機密を当該取締役が利用できないようにすることは難しく、自ら又は他人のために私利を貪り、会社の利益を損なうことになるため、「公司法」(「会社法」)は取締役の競業禁止義務について明文規範を設けている。
2.取締役競業禁止の立法の本来のねらいは、会社及び株主の利益を保障することにある。したがって、株主総会が取締役の競業情況について斟酌した結果、会社が取締役の競業行為を容認することができると認める場合には、取締役のこの義務を免除しても差し支えず、これを以って双方の利益の均衡を図る。また、株主総会が取締役の競業禁止義務解除の可否について実質的な審議を行なうことができるよう、「公司法」には、取締役が自ら又は他人のために会社の営業範囲内に属する行為を為す場合、株主総会に当該行為の重要な内容を説明するとともに、その許可を得なければならない、と規定されている。「証券交易法」(「証券取引法」)にはさらに、公開発行会社は取締役の競業禁止義務解除の議案について、召集事由にその主な内容を列挙並びに説明しなければならず、臨時動議を以って提出することはできない、と規定されている。凡そこうした規定のねらいは、取締役の競業情報の十分な開示を確保することによって、株主が特定の取締役の競業禁止義務を免除するか否かについて賢明な判断を下すことができるようにすることにある。
3.立法目的を貫徹するため、競業行為を為そうとする取締役は、株主総会開催前に、自らが進めようとしている競業行為について、株主総会が許可決議を為すのに必要な判断資料を提供しなければならず、且つ当該これらの資料は会社経営が今後受ける影響の程度を予測することのできる具体的な事実でなければならない。もし取締役が株主総会に対し十分な説明を行なわずに又はその説明の内容に虚偽不実があり、株主総会の許可を受けたのであれば、かかる許可は適法ではなく、無効とされなければならない。株主総会の為す取締役の競業禁止義務解除の許可は、具体的な行為について個別にこれを行なわなければならず、概括的な許可は認められない。法条に明確に定められている「株主総会に当該行為の重要な内容を説明せよ」との要求は、この趣旨に基づくものである。
4.本案の株主総会の進行順序は、討論が選挙に先立っており、これは当該回の会議の議事録を見れば明らかである。即ち、係争の競業禁止解除議案について討論、表決を行なう際、取締役の改選がまだ行われておらず、新任の取締役が選出される前に、事前に当選を許可された者が同業務の会社の取締役を兼任することができ、並びに彼らの競業禁止義務は解除されており、かかる事実はこの決議が具体的な個別案について為されたものではないことを特に証明するものであり、無効とされなければならない。
実務上、株主総会の取締役競業禁止解除に係る決議を有効とするためにも、議事手続き上においては、まず取締役選挙を行なってから、新たに選出された取締役に関連する競業行為について免除しなければならない。具体的なやり方としては、議長又は議事進行者が新しく選出された取締役一人ひとりの競業情況(どの会社のどの役職に就いているのかも含まれる)について明確に報告してから、討論を行い、株主総会にかけて決議、通過させなければならない。