ニューズレター
投資家保護団体訴訟
2002年6月に立法院で可決され、同年7月17日に総統により公布された「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」は、台湾で現在実施されている証券及び先物投資家に対する保護策の重要な法的根拠である。以前、財政部金融革新チームは「投資家保護制度の設立」報告を提出したが、次第に証券及び先物取引の投資家の保護が重視されるようになり、1998年から1999年にかけて44件もの粉飾決算事件が発生し、さらに約半数の案件は、証券及び先物市場発展財団(証券及期貨発展基金会)の投資家サービス及び保護サービスセンター(以下、「証期会投服中心」と略称)と検察官が互いに協力して、刑事訴訟付帯民事訴訟の方式又は団体訴訟の方式を利用して、被害者による投資家保護訴訟の提起ををサポートし、投資家の権益拡大のために争った。しかし、投資家の権益の拡大及び保護については、依然として充分とはいえない。
分散している投資家の力を統合し、これら権益を保障するため、「証券投資家及び先物取引き保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」は、特に保護機関の設立及び管理、保護基金の供給源及び運用、紛争事件の処理及び証券商の利益衝突の回避等の事項について、明確な立法を為しており、そのうち投資家の権利に関する司法救済手続については、特に「団体訴訟」と「団体仲裁」制度を明確に規定しており、当時、台湾初の訴訟法制と称された。
また、他方で、台湾の民事訴訟法も今年(2003年)1月に大幅に改正されて、団体訴訟制度が正式に導入され、台湾の民事訴訟の一般形態の1つとなっている。その結果、両者は、その適用の選択の問題が生じた。「証券投資家及び先物取引家保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」及び新たに改正された民事訴訟法における団体訴訟規定の共通点及び相違点の比較は以下の通りである。
1.「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」における団体訴訟又は団体仲裁に関する規定について
(1)定義及び形態
「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」第28条から第36条には、多数の証券又は先物取引投資家が直接損害を受ける事態をまねいた同一の証券又は先物取引事件について、20人以上の投資家が訴訟又は仲裁実施権を本法の規定により設立する保護機関(その性質は一財団法人であり、独立した法人格を備えているので、訴訟上の原告となることができる)に授与し、該保護機関は公益目的と会社定款に定める目的範囲内において、該保護機関の名義で起訴又は仲裁を行う。これが即ち本法にいう「団体訴訟」又は「団体仲裁」である。
団体訴訟の進行中、一部の投資家又は取引家が訴訟又は仲裁実施権の授与を撤回し、その結果、20人に満たなくなった場合、本法は「保護機関は依然としてその残りの投資家及び取引家の部分について、訴訟又は仲裁を継続することができる」と規定している。訴訟又は仲裁で勝訴した際には、保護機関は、獲得した賠償金から訴訟又は仲裁に必要な費用を控除した後、実施権を授与した証券投資家又は先物取引家にその残りを分配しなければならない。
保護機関の経費の財源は、証券商、先物商、証券取引所及び店頭売買センターからの積立金又は寄付金などの保護基金である。保護機関は公益の職責を有しているので、本法第33条の特別規定により、保護機関が団体訴訟又は団体仲裁について報酬を得ることはできない。
(2)団体訴訟又は団体仲裁の実益
①分散したパワーの統合
団体訴訟又は団体仲裁の最大の実益は同一事件に係る被害者の紛争を一度に解決できる点にある。各投資家個別に訴訟又は仲裁を提起するような訴訟経済に反する状態を回避することができるとともに、裁判所の負担を軽減するなどの利点がある。
訴訟上の原告は証拠提出責任を負う必要があるが、台湾の投資家の多くはそれぞれ分散しており、検察官でも証期会でもない以上、大会社の不法行為に関する情報や証拠の入手は困難である。また、証期会投服中心の2002年5月の資料には、刑事訴訟付帯民事訴訟をもって賠償を請求する場合、約6年半の時間を費やしたケースもあり、仮に状況が変わり又は被告が財産を移転した場合には、投資家は、1枚の勝訴判決を勝ち取ることができるだけで、実際に賠償金を獲得することはできなくなる。このように個々の投資家がそれぞれ独自に賠償請求訴訟を起訴することは、コストが高く、リスクも極めて大きく、また損害を受けた投資家を十分に保護することもできず、甚だしきに至っては二次的な不利益を被る可能性さえあることがわかる。
本法は保護機関に対し、団体訴訟又は団体仲裁を提起するために、発行人、証券商、証券サービス事業者、先物業者、又は証券及び先物市場関連機関に協力又は書類や関連資料の提出を請求する権利を与えた。したがって、情報収集の一点を取っても、個々の投資家よりはるかに有利である。
②訴訟費用に係る優待
このほか、保護機関が提起した団体訴訟又は団体仲裁は、仮に要求する賠償金額が1億台湾元を超える場合には、本法の規定により超過分の裁判費は免除される。つまり、地方裁判所に支払う裁判費用の上限は110万台湾元となる(新たに改正された民事訴訟法の施行後は、累進制を採用しているため、70万台湾元上限と大幅に減額されている)。保護機関が行う財産移転の阻止手続及び損害を受けた投資家の救済のために為す仮処分、差押え及び仮執行などの保全手続の請求については、担保提供が免除される。これに対し、一般の個人訴訟にはこうした裁判費用に関する優遇措置がなく、保全手続請求時には通常担保を提供しなければならず、その負担は重い。
2.新たに改正された民事訴訟法における団体訴訟関連規定について
2003年1月に通過した民事訴訟法改正案は、団体訴訟制度について主に旧法の選定当事人に係る制限を緩和し、以下の3タイプの団体訴訟に大別することができる。
(1)公益社団法人代表社員訴訟
多数の共同利益を有する人が同じ公益法人の社員であるのならば、訴訟経済を追求し、各社員の権利行使の便宜を図るため、会社定款に規定される目的範囲において、該公益法人を選定し、代表社員が訴訟を提起することができる。この規定は行政訴訟法が規定する「公益社団法人代表社員訴訟」に類似している。
(2)被害者団体訴訟
公害、交通事故、欠陥商品又はその他同一の原因により共に損害を被った人がすでに代表を選定し、訴訟を提起して損害賠償を求めている場合、裁判所は選定された人の同意を得て、その他まだ訴訟に参加していない共通の被害者に対し、該団体訴訟に一緒に参加して権利を主張できることを公告することができる。選定された者も自発的に裁判所に公告を請求し、同一の紛争を一回で解決することを追求することができる。また、潜在的な被害者が表に出て損害賠償を求める誘因を増加することによって、違法メーカーに対する圧力を構成し、社会公益を実現する。
(3)公益法人訴訟
公害、欠陥商品又はその他の事故により生じた危害の多くは継続性、穏微性、拡散性といった特性を有するため、その被害者はしばしば独力で侵害排除を訴える知識及び能力を欠いており、大衆の権益が引き続き損害を受けても誰も制止することができないといった状態を生む。上述のような状況が生じるのを防ぐため、新法では公益法人に、その目的事業主務機関の許可を得て、会社定款に定める目的範囲内において、行為者に対して当該行為の差止めを求める訴えを提起することを認め、これによってその侵害を阻止することを図る。
台湾の民事訴訟法の団体訴訟に関する重点は、公益社団法人代表社員訴訟及び公益法人訴訟の制度が新設されたこと以外に、主に元々の「選定当事者」(即ち、上記の被害者団体訴訟)の要件が緩和され、当事者は、「全体」によって共同で選定された被害者である必要はなくなり、団体訴訟の手続が簡素化されたことにある。同時に、裁判所公告の方式をもって、その他のまだ訴訟に参加していない被害者に、 訴訟への参加、一括請求を「呼びかける」ことができ、これによって全被害者が訴訟に参加するという願い及び機会を拡大することができる。裁判費については、60万台湾元を超過する場合、該超過部分について一時的な徴収免除の優遇措置がある。
3.比較分析
同一の証券又は先物事件で損害を受けた多数の投資家及び取引家は、「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」の規定に従い、訴訟又は仲裁実施権を保護機関に与えることによって、団体訴訟を提起し又は団体仲裁を請求することができることに加え、同一の証券又は先物事件に係る共同被害者の立場をもって、新たな民事訴訟法の規定に基づいて、団体訴訟を提起し、賠償を求めることもできる。しかし、団体仲裁を提起しようとする場合には、「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」の規定によらなければ行うことができない。上記の「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」及び民事訴訟法における団体訴訟の共通点及び相違点を分析すると、以下の通りである。
(1)保護機関は報酬を受けない、とする「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」の規定は、投資家及び取引者に有利
保護機関は公益職責を負うものであり、「証券投資家及び先物取引家保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」には、保護機関は報酬を受取ってはならないとする明文規定が置かれており、その必要経費はすべて保護基金から提供される。これは、消費者保護団体及びその委任を受けた弁護士は消費団体訴訟提起に際して報酬を受取ってはならないとする消費者保護法の規定と、理念的に同じである。ゆえに、それはいずれも公益性質を有することからの結論である。
新民事訴訟法の団体訴訟に同様の規定はない。しかし、原告は、自らが選任した弁護士を訴訟代理人とすることを裁判所に請求することができ、かつ訴訟費用の一部は、後日、敗訴の当事者の負担とすることができる。
したがって、弁護士費用の支出について見れば、「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」の規定のほうが投資家に有利となっている。
(2)保護機関による保全手続請求は担保免除する「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」の規定は、投資家及び取引者に有利
保護機関が仮差押え、仮処分又は仮執行などの保全手続を請求する場合、原因又は判決確定前に執行しなければ、弁償又は計算するのが困難な損害を受けるおそれがあることを説明しさえすれば、担保提供の免除を受けることができる。しかし、民事訴訟法により提起した団体訴訟の保全手続については、特別な優遇措置規定はない。したがって、保全手続について見れば、「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」による団体訴訟は、民事訴訟法の団体訴訟提起より有利である。
(3)民事訴訟法の団体訴訟は裁判費用納付が免除され、投資家に有利
前述したように、「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」は、請求金額が1億台湾元を超過する場合、該超過部分については、裁判費用が免除される旨規定されている。しかし、新たに改正された民事訴訟法には、被害者団体訴訟の裁判費用が60万台湾元を超過する場合、該超過部分について原告は一時的に支払を保留することができ、判決確定後、敗訴側が裁判費用を全額支払う旨の規定が置かれている。訴訟提起の費用について言えば、明らかに新民事訴訟法の規定のほうが有利である。
(4)民事訴訟法規定の団体訴訟は、訴訟提起の要件が比較的緩やか
「証券投資家及び先物取引者保護法(証券投資人及期貨交易人保護法)」には依然として20人以上からの授権がなければ保護機関は団体訴訟を提起することができないと規定されているのに対し、民事訴訟法第44条の2の共同被害者による団体訴訟には人数的な制限がないので、要件は比較的緩やかである。
4.結び
今回の民事訴訟法改正による団体訴訟制度の増設は、訴訟費用、団体訴訟形成、情報取得において、いずれも弱者である共同被害者の便宜を図り、且つこれを優遇する改正であり、これによって団体訴訟の提出を後押しし、社会正義を維持する。従来の証券投資家及び先物取引者の保護を目的として設けられた法律における団体訴訟に関する規定と比べると、或は立法に一貫性がないため、それぞれプラス面、マイナス面があり、投資家にとっては、実際に自分自身のニーズを考慮して、最も有利な手段を選択し、権利を主張することができるので、団体訴訟の効果及び社会的機能を十分に発揮することができる。