ニューズレター
発明特許侵害の非犯罪化
特許法が1994年に改正されたとき、多くの業界及び学界による積極的な推進のもと、初めて特許侵害の非犯罪化に関する法改正作業が進められた。当時、激しい議論の結果、発明特許侵害の懲役刑が削除にとどまり、罰金刑は留保され、実用新案及び意匠の侵害に対する刑罰については全く改正されなかった。しかし、一部の立法委員は下記の理由に基づき法草案を作成し、特許法の全面的な非犯罪化を主張している:
1.特許侵害が専門技術問題に及ぶ場合、刑罰をもって制裁を加えるのは妥当でない:
特許侵害を構成するか否かが極めて複雑な専門技術問題に及び、裁判官自身が専門知識を欠いている情況下では、専門家の鑑定結果のみを罪を論じる根拠とするしかなく、実際に無理がある。一般的な刑事事件の多くは道徳上の非難可能性を有しているが、特許侵害事件における道徳上の非難可能性は甚だ低く、専門技術知識に関する判断の問題である。検察官が技術について理解していないため、特許侵害告訴を受理した後、時間の切迫を理由に、告訴人の提出する告訴資料及び鑑定報告のみを根拠として、被告に対し当該資料及び鑑定報告についていかなる弁明の機会を与えず、即座に捜索・押収を進める実務がさらに問題を深刻にしている。検察官の犯罪捜査権が特許権者に濫用されがちで、特許権者が刑罰をもって業者に対し不公平なライセンス契約を強制し国内の産業発展に影響を与えることに照らして考えれば、特許法は、非犯罪化される必要がある。
2.外国法と国際法の多くは刑罰をもって特許紛争に介入していない。米国では特許紛争は、100%民事紛争に属しており、刑罰規定はない。大陸法系国家では、ある国では既に特許法の刑罰規定を廃止しており(例えばフランス)、またある国では刑罰規定を残しているが、ほとんど適用されていない(例えばドイツ)。WTOのTRIPs Agreementは、商標及び著作権侵害について各会員国家が刑罰を定めるべき旨要求しているが、特許侵害については同様の要求を課していない。
3.特許刑罰の効果には限界がある
1988年に検察官が捜査した特許違反事件数は578件で、そのうち起訴されたものは126件である。また、裁判所が審理した特許法刑事事件は162件で、うち19件のみに特許法違反の判決が下された。1989年に検察官が捜査した特許違反事件数は147件で、そのうちわずか20件が特許違反の判決を受けたにとどまる。有罪判決を受けている大部分のケースで罰金が科されており、実際に自由刑が科されるケースは極めて限られている。
4.大裁判官会議釈字第507号解釈が昨年公布された後、特許刑罰の廃止問題は新たに検討されるべきである。
当該解釈は、原特許法第131条の、特許権者が特許侵害告訴を提起する際には侵害鑑定報告を添付すべき旨の規定は、憲法第16条が認める国民の訴訟権に対する不必要な制限であり、憲法第23条の比例原則に違反していると解釈を示している。釈字第507号公布後、刑罰廃止について新たに検討の切実性及び必要性が生じている。
経済部は、国内経済発展を促進し特許法の非犯罪化に反対する立場の外資を誘引する必要から、我が国の法制上、知的財産権侵害に対しては商標法及び著作権法と同様に刑事制裁を科し、知的財産権法律体系全体の均衡を考慮し、特許刑罰廃止にのみ偏向すべきではないとの認識を示している。更に、国民が訴訟手続の遂行前又は遂行中に財産を移転する情況はよく見られ、民事によって仮差押え及び仮処分などの保全手続をしようとすれば、まず相当額の担保金を供託しなければならず、特許権者が権利を実行する際の負担は増加する。他人の知的財産権を尊重する重要性について依然として普遍的には認知していない我が国の国情に基づき、且つ知的財産権保護が重視されていないとの我が国に対する国際社会における指摘や誤解を解くため、またコピー行為を打破し、知的財産権の保護を強化するためにも、特許侵害については依然として刑罰による処罰をもって臨む必要があるのである。
立法院は今年5月29日、与野党合同会議により、発明特許侵害に対する刑事罰に関する規定を削除した。しかし、実用新案権、意匠権侵害に関する刑罰規定は依然として残されている。発明特許侵害の非犯罪化により発明特許の保護が不充分となる点を補うため、特許侵害行為が意図的に行われた場合には、裁判所が侵害情況を参酌し損害額の3倍の損害賠償金額を定めることができるよう規定し、均衡を図っている。
この改正案と前記の全面的な非犯罪化に関する改正案が2案とも提出されたが、これらの改正法がいつ正式に通過するのかは不透明である。我が国の訴訟制度には米国の証拠開示制度がまだ導入されていないため、後日、発明特許権者が検察官の捜索・押収なしで、民事訴訟手続において権利侵害者の不法行為を証明しようとしても、おそらく実際には難しいであろう。現在進行中の発明特許に関する刑事訴訟については、当該改正案が通過の影響を受けることが予測される。その他、かつて特許権者が採用していた、案件が検察官により起訴され裁判所に係属した後、裁判所が付随して提出する民事訴訟損害賠償請求によって訴訟費用を節約する方法も、今後は不可能となるだろう。長期化している一部の訴訟事件は、民事訴訟損害賠償請求に変更しようとしても、当該請求権の時効が成立している可能性があり、救済不可能という苦境に陥るだろう。こうした問題は全て、我々がその今後の動向について注目する価値のあるものである。